Kokeshi Second Angle,こけしのドラマトゥルギー,遠刈田系佐藤一夫,奥瀬鉄則,津軽系

豆知識から。
「壁のシミが人の顔に見える」とか、「雲の形が怪獣に見える」といった現象を「パレイドリア現象」と呼ぶそうです。
一方、「3つの点が逆三角形状(∵)に配置されていると人間はそれを顔と錯覚する」という現象もあります。それを「シミュラクラ現象」と呼びます。

さて、本題。
パレイドリア現象やシミュラクラ現象には当てはまらないけれども、こけしに関心を持ってしばらくすると「身近に存在する物体から伝統こけしの顔や形状、模様を連想してしまう」という現象を体験することがあります。これを「こけし病」とか「こけボケ」と呼んでいる方もおります。

私もつい最近、その現象を体験しました。休日の夕方、近所のスーパーへ買い物をしたときのことです。
調味料売り場を歩いていてマヨネーズのパッケージをふと見ていたところ、自宅にある作品を思い出したのです。思わずマヨネーズを買って並べてみました。

木目模様とマヨネーズ遠刈田の佐藤直助工人が考案した木目模様と某社マヨネーズの網目模様パッケージ。
似て非なるものなのだけれども連想はする、という一例です。(作品:遠刈田・一夫/年代不明)

もう一例。
とあるInstagramのユーザーさんが投稿された画像を見て、実際に並べていたらどうなるかを試みたのがこちら。
同じくスーパーの調味料売り場から調達してまいりました。
盛秀型とごま油瓶津軽の盛秀太郎型と某社純正ごま油の瓶。(作品:津軽・鉄則/年代不明)
違和感がありません。画像をしばらく眺めていると中央のごま油瓶が年代物の古作に見えてきます。

食品メーカーのサイト(Weyback Machine 2015-05-21)によると、ごま油の瓶は当時の社長さんが昭和40年代にアメリカへ業界視察した際に「持ちやすく垂れにくい容器」のヒントを得て考え出された形なのだそうです。
思えばこけしの胴部分の形状は子どもが持ちやすいように作ったという話がありますから、プロセスは違えど持ちやすさを考えていくとこの形にたどり着くのかなとも思えます。

実際にこけしの形状をヒントに考案された容器のデザインがあります。
乳酸菌飲料「ヤクルト」の容器(剣持勇, 1965)です。
製品の販売会社のひとつ「富山ヤクルト販売」のWebサイトを見ると、会社沿革にこのような一節を読むことができます。

容器デザインは、インテリアデザイナーとして著名な剣持 勇氏が担当しました。ちなみにイメージは、なんと「こけし」!!だったそうですよ。

また、英国法人「Yakult UK」のサイト(Wayback Machine, 2016.04.28 Archive)にも「従来型のこけしの形状がベースになっている」と紹介しています。

容器の「くびれ」には、(1)子どもの手で握ることができる、(2)中身が一気にこぼれ出ない、(3)ベルトコンベアーのガイドに噛み合わせることができる、など明確な「機能」があります(→「特許研究」 No.53, P39, 工業所有権情報・研修館, 2012.3(PDF))。

ちなみに剣持氏はインダストリアルデザイナー協会の立ち上げに関わりましたが、同じく名を連ねたのが柳宗理氏。戦前の民藝運動に携わった柳宗悦氏の息子です。人脈を見ればなぜこけしをヒントにできたのかが理解できます。

ここまで書いてきて、こけしとまったく関係のない物体を一緒に並べることにどのような意味があるのかと自問してみるのですが、今まで特に意識していなかった身近な物体の形や模様に対する興味がこけしをトリガーにして持てる点にあるのではないかと考えます。

余談

ロクロ線ロクロ線。

フィンランドのイッタラオリゴ(Iittala Origo)を見て「あ、ロクロ線…」と連想してしまうのがこけしファン。同化しています。

th_IMG_4778鯖湖風味。

鯖湖食堂にあったレトロな割り箸入れでした(撮影:埼玉県さいたま市大宮区/2015)。