Kokeshi Second Angle,鳴子系佐々木久作,利右衛門系列

なぜ中古のこけしがアンティーク玩具店ではなく、古書店に並んでいるのだろう? という疑問をかつて持ったことがある私ですが、近頃になってその意味が自分なりに理解してきました。
一本のこけしには一冊の本に匹敵する情報が詰まっているからなのだなと…。

さて今回は「伝統こけしのデザイン」(Cochae 2013)のページデザインを思い出すような背景色で撮った 佐々木久作 工人(1913-1983)の作品です。

久作工人は秋田・象潟の方。今は「にかほ市」になっています。
近年注目されている版画家・池田修三氏(1922-2004)と同郷です。

調べてみると来歴がなかなか興味深く、往年のテレビドラマ「おしん」を地でいく人生を送られていたことを知りました。

本業は菓子職人でした。
本荘の老舗、「三之助もろこし本舗」で丁稚奉公中に日中戦争で徴兵、その後象潟で菓子屋さんを開業するも砂糖不足になり、新たな職をつけるため習得したのが木地挽きでした。戦後、再び菓子屋さんを営む傍ら趣味でこけしを作っていたとのこと。
師匠は高橋盛工人。

画像は推定・遊佐福寿工人の木地に久作工人が描彩を施した作品です。木地は日本海側でよく使われるイタヤではなくミズキです。

参考

「こけしに鎮魂の思い」(秋田魁新報 2014.3.2)

Kokeshi Second Angle,仮説だらけのこけし研究レポート,鳴子系利右衛門系列,遊佐福寿

鳴子_福寿_斜め笠
遊佐福寿工人といえば「勘治型」が広く知られていますが、創作こけしも数多く作られていて、伝統こけしと創作こけしを融合させるという新たなスタイルにも挑んでいました。

中でも写真の2本は非常に特徴的なもので、左の作品は鳴子温泉周辺の商店に寄贈されたものと言われています。
左の顔面に立体感を持たせた作品は一見するとグロテスクにも感じますが、見る方向や陽の当たる方向が変わるごとに表情が変化していく、とても面白い作品です。
個人的には米国Coleco社の"Cabbage Patch Kids"(キャベツ畑人形)を連想してしまうのですが…。

右はいわゆる「斜め笠」。笠をかぶったこけしは数多くありますが、斜めにかぶったものは非常に珍しく、そのキュートさに惹かれるものがあります。

 

さて、この「斜め笠」、頭部と笠はひとつの材料から作られています。接着や結合をせずに頭部と笠を作り出しています。
眺めていてまず感じるのは「これはどのように作ったのだろうか」という疑問です。
ロクロは軸を中心にして回転体を作り出す機械ですが、普通に回転させただけでは斜めの笠を作ることはできません。

@stijprojectが投稿した動画


笠と頭部の位置関係を動画で見てみます。
前半は頭部を軸に回転させ、後半は笠を軸に回転させています。こうすると2つの回転軸が存在することが分かります。加えて経年で変色した木地をよく見ると、カンナを挽いた跡がはっきりと分かります。
すなわち、頭の部分を作るのに2回ロクロをかけています。

鳴子_福寿_斜め笠
さらに作品写真に2つの軸を描いてみると、ろくろをどのように回していたかが理解できます。
ここから仮定できる作り方は次のような手順になるかと考えられます。

  1. はじめに円筒形の材料を青い線に沿ってロクロにセットし、笠と頭部の上方を挽きます。
    材料は回転軸「Axis 1」を中心に回ります。この際、次の工程に必要な首のはめ込み部分と、材料を固定するロクロのツメ(チャック)を引っ掛ける部分の材料は余裕を持って残していると考えられます。
  2. 笠と頭の一部を引き終わったのち、赤い線に垂直になるように材料の首元部分をカットしロクロにセット。
    材料は回転軸「Axis2」を中心に回ります。頭部の下半分と胴体のはめ込み部分を挽きます。

福寿工人がご存命ならこの仮説の真偽を確かめられるところですが、今となっては残された作品から推定するしかありません。もしお話できる機会があったとしても簡単には教えず「よく見て考えてごらん」と言ったかもしれません。

ちなみに外国の木工旋盤界隈ではこの複数の回転軸で加工する技法を"Multi Axis Turning"と呼んでいて、材料をらせん状に加工する際に使われています。