「気品」を思い出す〜鳴子温泉湯元・高橋武俊 工人作より〜

2021-10-31直蔵系列,高橋武俊Kokeshi Second Angle,鳴子系,直蔵系列,高橋武俊

2021年10月下旬の鳴子温泉風景(下地獄・湯めぐり広場付近)

「非常」とか「緊急」といったことばが日常に蔓延していると、知らずしらずのうちに心身に疲労が蓄積してきます。そんなときにこそ旅に出たり、温泉に浸かりたくなるものですが「非常」や「緊急」が醸し出す空気は私たちの欲求すら抑えてしまうわけです。

この「緊急」から一時的に解き放たれたとき、ふとたまらなくなって新幹線に飛び乗りました。
古川からローカル線に乗り換えたら、ディーゼルエンジンの振動と昼下りの陽射しで微睡む…こんな小さな時間がとてもありがたく感じられます。

そこで出会ったのがこのこけし。

2021年9月に開催された「第66回全国こけし祭り」のコンクールで最高賞を受賞した高橋武俊工人の作品。コンクールに出された作品と同時期に製作されたものです。

湯元・高橋武俊工人作、2021.

胴のフォルムと一筆目に気品の高さを感じます。
日々の多忙の中で忘れかけていた「気品」ということばをこのこけしに出会って思い出しました。

武俊工人曰く、ふだんよりも胴径を細めに挽いてスマートさを出したそうです。
そのスマートさは菊模様の間隔にも表現されており、胸元から裾に向かうにつれ模様の濃さ、密度が変化していくのに気づくかと思います。
肩のカーブは実際に手にとって触れてみるとその滑らかさと心地よさをより感じることができます。

湯元・高橋武俊工人作、2021.

湯元の「老舗 高亀」で購入したとき、丁寧に箱に入れて包装してもらいました。
ところが「あの表情がまた見たい」と、買ったばかりのお気に入りこけしを自宅に帰るまで待てず、ついつい包装を開けてしまいました。