Kokeshi Second Angle,鳴子系えじこ,岡崎靖男,岩太郎系列,田辺香

新屋敷・岡崎靖男工人作、2021.

鳴子温泉新屋敷にある「こけしの岡仁」を訪問したとき、藍とも異なるあざやかなブルーに魅せられて手に入れた作品。

えじこは工人の遊び心がよく出ます。
一方えじこを手にした人は遊び心をくすぐられます。
老若男女、誰から言われなくてもこのえじこを差し出されたら頭の部分をつまんでくるくるしてしまうでしょう。
プリミティブな遊びの中に私たちが求めているものを見出すことができます。

現在、身のまわりにはタッチパネルの機器が増え、画面に表示される妙に精彩なグラフィックに圧倒されつつも「押した感」や「つまんだ感」、そして「回した感」が満たされなくなっていることに気づくのです。
そんなとき、えじこに手をふれてみるとしばらく忘れていた感覚を取り戻せるのではないかと思います。

最近、各産地でえじこ(特に玉入れ式)を作るのが流行っているのは時代背景を反映しているのかもしれません。

鳴子・田辺香さん(工人修行中)作, 2021.5.11

こちらは記事執筆時点で岡崎靖男工人の工房において修行をしている田辺香さんの作品。
修行中や研修中は「工人」と表記しない慣例から(この慣例なるものがいつ頃からあるのか疑問の余地がありますが…)回りくどい表現になってしまうことをご容赦ください。

いいお湯に浸かったときの表情をしています。
「湯とろぎ温泉こけし」と呼ぶそうです。
ちなみにゆとろぎとは「(ゆとり+くつろぎ)−りくつ」の意。

こちらも手にすると頭の部分や湯船の部分を揺らしたくなってきます。

鳴子・田辺香さん(工人修行中)作, 2022.

鳴子温泉の「お湯の色」をイメージした描彩(→香さんのInstagram投稿より)。
このエメラルドグリーンはあのホテルの大浴場でしょうか、それともあの旅館の自家源泉でしょうか。

岡崎靖男工人作と田辺香さん(工人修行中)作, 2022.

「首振りえじこ」の師弟作をならべてみました(→動かしたときの状態はリンク先をごらんください)

鳴子・田辺香さん(工人修行中)作, 2022.

2022年の春先。
鳴子は日中気温が上がり、町なかを散歩しながら春が目の前に近づいてきていることを身体で感じました。

そこで出会ったのがこのこけし。

黄胴に暖かな陽射しを、表情に春に向かって前へ進んでいくような印象を覚えました。
このこけしを持ち帰ったあと、近所の中学校で卒業式がありました。卒業証書を持って正門から出てくる卒業生たちの表情とふと重なって見えました。

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こけし_中ノ沢_荒川洋一工人作、2020-1
会津若松・荒川洋一工人作、2020-1.

またたく群星の中を走り抜ける長い列車を見て童話に出てくる銀河鉄道を思い出すかもしれません。

私はこの描彩を見たとき、かつて東北本線や磐越西線を走っていた「機関車に牽かれた赤い客車列車」を思い出しました。
その風貌から「レッドトレイン」と呼ばれた車両の活躍した期間はそれほど長くはなく1984年頃から1995年のわずか10年ほどでしたが、個人的にはとても印象に残っています。

私がひとり旅を始めるようになった学生時代はすでに東北新幹線が東京に直通する少し前でした。それでも上野からの夜行列車もまだまだ残っていて、東北地方を旅するというのは「とても遠い場所に行く」という感覚がまだ残っていた頃でもあります。

加えて、財布の薄い身にとっては普通列車を乗り継いでいく貧乏旅行でした。郡山や一ノ関でこの「赤い客車」を目にすると旅の疲れとともに「遠くへきたなぁ」という感慨がより深くなるものでした。

このえじこは最近の製作ですが、茶席で茶碗を回すがごとく掌で転がしながら眺めているとふと昔の東北旅行を思い出すのです。
創作的な絵柄の中にも土地の香りが伝わってくる、素敵な作品だと思います。

こけし_中ノ沢_荒川洋一工人作、2020-2
会津若松・荒川洋一工人作、2020-2.

こちらは太陽に反射して輝く水面の下を泳ぐ川魚を連想するでしょうか。
ふたを回して星空模様の場所を変えてあげると、いろいろな絵が作れて想像力が湧いてきます。

こけし_中ノ沢_荒川洋一工人作、2020-3
会津若松・荒川洋一工人作、2020-3.

暖かな日差しの中を舞う蝶と読み取れるし、もし月夜だとしたらさらに幻想的ですね。
見る者にさまざまな想像力を巡らせる描彩だと思います。

こけし_中ノ沢_荒川洋一工人作、2020-4
会津若松・荒川洋一工人作、2020-4.

写真を拡大し過ぎて少しピントがぼやけております。
このえじこは肩の部分が高く作られていて、ひょっこり首を出したようなユーモラスさがあります。

こけし_中ノ沢_荒川洋一工人作、2020-5
会津若松・荒川洋一工人作、2020-5.

ふた(頭部)を取ると深くくり抜かれた容器が。
くり抜かれた内部を目を閉じて指先を回しながら触れていると、異世界というか「いま、ここ」ではない空間に踏み入れた感じがしてきます。

こけし_中ノ沢_荒川洋一工人作、1982
会津若松・荒川洋一工人作、1982.