Kokeshi Second Angle,弥治郎系富塚由香

2024年11月9日〜10日にかけて東京巣鴨のとげぬき地蔵尊高岩寺で開催された「東北地方復興支援 伝統こけし展示・頒布会」の会場では、岩附義正工人、富塚由香工人、吉野誠二工人が来場者にこけしの解説をしていました。
3工人に共通するのは「いずれも埼玉県在住の伝統こけし工人」。埼玉は隠れたこけし産地です。

そのひとり、富塚由香工人は蕨市に在住し、自宅の一室に工房を構えて製作しています。住宅街の中にあるので、ここにこけし工房があることを地元住民も知らないとか。
余談ながらこの場を割いて市内風景の一部をご紹介します。

埼玉県蕨市内風景-1 和楽備神社の七夕
埼玉県蕨市内風景-2 緑の残る錦町の一角
埼玉県蕨市内風景-3 旧中山道沿いの割烹料理店にて

さて今回、表題の作品を入手したのは「つややかな頭部の紫」に惹かれたからでした。
この色、初夏の採れたての茄子を連想して新鮮さを感じます。

同じ系統作品での発色をくらべて見てみましょう。同じ紫色でも工人によって色味は異なりますが瑞々しさを感じる発色であることがわかるかと思います。

この瑞々しい弥治郎の紫だけでなく、甘濃ゆい土湯の赤とそれぞれの産地独特の色味はありますが、どのような色素の配合で出しているのか、興味が湧くところです。

Kokeshi Second Angle,津軽系奥瀬鉄則

こけしをいろいろな角度から見る楽しさに気づいたのは、奥瀬鉄則工人の作品がきっかけでした。
2014年の秋、鳴子温泉の喫茶店「おかしときっさ たまごや」の店中に飾ってあったこのこけしを客席のテーブルに置き、くるくる回して見ていたときです。
ふと後ろ姿のうなじというか、刈り上げのキュートさに気づきました。

さらに少し回してみると振り向きざまに微笑む表情が…これもまたキュートだと気づきました。昔の切手にあった菱川師宣の「見返り美人」のような角度です。

2024年9月に開催された東京こけし友の会例会で仙台の佐藤康広工人が話していた「こけしをいろんな方向から見てみてください」という一節を頷きながら聞いていました。いろんな角度からこけしを見ていると、正面で見たときとはまた違う、魅力的な表情に出会うことができます。

…とこんな話をしていたところ、東京こけし友の会元会長のYさんが「バックシャン※とはこけしのためにあるようなことばだ」とコメントされたのがとても印象に残りました。
いいこけしは絵よりも姿を見ればわかります。

※バックシャン(Back Schön)…和製英語+独語。旧制高校の学生が後ろ姿美人の人をこのように表現したそうです。一方で「背面は美しいが正面は…」という意味も含んで言及されることもあり、本人に直接言うと失礼にあたるケースもありますが、本文ではその意味で用いたものではありません。