Kokeshi Second Angle,遠刈田系佐藤保裕

佐藤保裕工人
1月24日(日)、東京神田で開催された東京こけし友の会の新春例会。

例会では遠刈田系の佐藤保裕工人、佐藤早苗工人が招待され、作品に関する貴重なお話を伺うことができました。
それでは今回入手した作品を例にしながらお話の模様を記していきたいと思います。

遠刈田_保裕_箕輪広喜型_2015_01
保裕工人作、箕輪広喜型9寸。
2015年に鳴子温泉で開催された「第61回全国こけし祭り」のコンクールで国土交通大臣賞を受賞した作品と同型品です。

伝統こけしでは師匠や先代が製作した作品をモデルに「復元」したり「写」すことがありますが、どの作品をモデル(「原(げん)」と呼んでいます)にしたかを明確にするため「(所有者+原作者)型」という呼び方をします。
「箕輪広喜型」とは「収集家の箕輪氏が所有している佐藤広喜工人作品」の意味です。

佐藤広喜工人(1889-1944)は現代の遠刈田こけしの流れを作った一人、佐藤松之進工人のいとこで弟子です。その仕事ぶりは半端なく「人間機械」と呼ばれました。他の系統の影響を受けて鳴子系の描彩を採り入れたりしたこともありましたが、これにはさすがの松之進師匠も「遠刈田はやはり遠刈田の式でやるのが本当だ」と言ったとか。
(参考→深澤要氏著『こけしの微笑』より「新地の今昔」)

さて、この作品は数多くある広喜工人作の中でもユニークな部類で、下瞼を飛び越えた眼点が大きな特徴。どんなことにも目を輝かせる好奇心旺盛な表情と、仕事熱心な広喜工人のエピソードが重なってきます。ちなみに鼻の形状は「猫鼻」。

遠刈田_保裕_箕輪広喜型_2015_02側面。
保裕工人曰く「筆の『かすれ』や『にじみ』を研究すると面白い。筆の入れ方から抜き方、墨や染料の含み具合、木地の状態や表面の仕上げ方…変わる要素がたくさんある」
こけしの描彩は書道の表現につながるものがあるなと感じた次第です。
前髪や鬢(びん)の質感が伝わってきます。

遠刈田_保裕_箕輪広喜型_2015_03背面。
寸法の大きい「大寸物」の背面には菖蒲が描かれています。

遠刈田_保裕_箕輪広喜型_2015_04胴模様の部分を拡大してみます。
遠刈田系でよく描かれる「重ね菊」という模様ですが、じっと見ていると気づくところがあります。

遠刈田_保裕_箕輪広喜型_2015_05画像にコールアウトをつけてみました。
通常、重ね菊の模様は左右対称に描かれることがほとんどですが、こちらは非対称になっています。花びらの枚数は一段目右から5枚、6枚、二段目右から5枚、6枚…と互いに異なる一方で、葉の枚数は左側4枚、右側3枚です。非対称ではあるけれども一定の法則性をもつ、保裕工人のことばを借りれば「リズムのある」描彩です。

NHKテレビで放送された「美の壺(第332回)・よみがえるこけし」で「繰り返しのリズム」について触れられていましたが、系統、系列、工人ごとにさまざまなリズムがあるのだなと感じた次第です。

ちなみに「胴の模様を非対称とすることで躍動感を持たせたのではないか」と保裕工人は分析しておりました。

遠刈田_保裕_箕輪広喜型_2015_06好奇心いっぱい、元気な女の子。
表情だけでなく胴模様にも動きを与えて表現しています。

遠刈田_保裕_箕輪広喜型_2015_07頭頂部の「青点」に飾り模様が入っているところにも注目。

佐藤保裕工人
愛好家所蔵の広喜工人作品を撮影する保裕工人。
「愛好家さんの撮るこけし写真は正面を向いたのがほとんどだけど、工人が製作の資料にするときは背面の描彩や筆の流れ方が分かるようにあらゆる角度で撮る」とのこと。可能な場合は現物を借りて、実寸や木地の質感などを調べるそうです。

新春例会の冒頭で「口べたなもので…」と話していた保裕工人でしたが、作品解説や製作模様について話し始めると次から次へと興味深い話題が出てきて、私は思わず身を乗り出して聞いてしまいました。

こけしはたくさんのメッセージを発しています。趣味者の視点、プラス作り手の視点を知ることによってまたひとつメッセージを読み取る幅が広がり、深みが増していくんだなと感じました。今回工人さんが説明したお話のほかにもメッセージがあるはずです。

<おまけ>
佐藤保裕工人「この子持ち、頭を底に向けて入れてるんです。逆子にしない…というか、胴が頭に向かって細くなるから入らないんです」

Kokeshi Second Angle,鳴子系直蔵系列,高橋正吾

鳴子_正吾_武蔵写し高橋正吾工人作、武蔵写し。
85歳現役とは思えないしっかりした挽きと筆致。

これぞ鳴子系、質実剛健のことばがとても似合う作品です。
オーソドックス、スタンダードであることの安定感。
見るほどに、時を重ねるごとにじわりと味が出てくる…その味覚が分かっていけるように私も精進したいと考えます。

気に入ったこけしを見つけたとき「こけしと目が合った」と表現するファンは結構いまして私もそのひとりです。

かつてこけし研究者で一世を風靡した土橋慶三氏は自身の著作でこけしの選び方について、自分自身の直感を大切にしなさい、との趣旨で説いておりましたが「目が合った」というのはまさに直感的な現象のひとつだと思います。

2016年1月上旬、東京・神宮前で開催された佐々木一澄さんたちの個展「日本の郷土玩具」、「集めたり 描いたり」に出かけたときの話。

全国の郷土玩具の頒布コーナーを眺めていると、鳴子の高橋正吾工人作が数本、棚に並んでいました。検討がてらにちらっと眺めていったんコーナーを離れたのですが、なにか引っかかるものがありました。

しばらくすると頭の中にあの上目加減な表情がくっきり浮かんできました。ちらりとだけ眺めたつもりなのに脳裏に焼きついているとは、やはりただものではない…ふたたび私はコーナーに呼び戻され、連れて帰ってくることに。

th_P1010931個展が開催された神宮前の「OPAギャラリー」にて。

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個性派揃い。展示された全国の郷土玩具たち。
中には廃絶(後継者がいないなどの理由により製作が途絶えてしまうこと)された郷土玩具もあります。

th_P1010927ギャラリーに展示された伝統こけし古作群。
大湯温泉の小松五平、鳴子の高橋武蔵、大沼岩蔵、大沼みつお、大鰐の長谷川辰雄各工人作が並ぶ。

鳴子_武蔵写しの「原(げん)」となった、高橋武蔵工人の戦前作。
武蔵工人は現在の鳴子こけしの流れを作った工人のひとり。