この記事は、2014年7月に姉妹サイト「現代風景通信Blog」に掲載したものを加筆訂正と写真を大型化したデジタルリマスター版です。
自分自身がなぜこけしに興味を持ったのか、その片鱗が当時の文章から見えてくるのではないかと思い、このサイトにおいても掲載させていただきます。
先日、休養で鳴子温泉に滞在していた折、このイベントが開催されることを知りました。
「めったに見られないものが見られるからぜひ行ってみて」
ということばに惹かれて向かったのは東京巣鴨のとげぬき地蔵尊。
震災復興支援イベントとして2012年から東京巣鴨のとげぬき地蔵尊(曹洞宗萬頂山高岩寺)で開催されている「伝統こけし製作実演」。第1・2回の2012年は福島の土湯系、翌年第3・4回は青森の津軽系、そして第5回目の今回は鳴子系です。地元の伝統こけし工人をお呼びして製作を実演していただくほか、作品の展示や販売も行なうといった内容です。
「なぜ、とげぬき地蔵尊でこけしなのか?」という疑問には「住職さんが東北地方のこけしを収集されているから」が答えだそうです。
会場は高岩寺の隣にある信徒会館ですが、お隣の境内では観光PRコーナーが置かれ、地元の名産品が展示販売されていました。観光案内所や商工会の見覚えある方々もPRのために東京入りしていました。
私の行きつけ「玉子屋本店」の「こけしのゆめ」と新製品「もなかフランセ」が並んでいるのを発見。ここだけの話、「もなかフランセ」の商品写真は私が数カ月前に撮影したもの。ご採用ありがとうございます。
「肉のしばさき」オリジナル調味料、「しばドレ」、「しばだれ」のポスターは、さきの「こけしのゆめ」のパッケージをデザインした宮本悠合さんの作品です。
それでは会場へ向かいます。
今回の実演者さんたちの作品が展示され、購入することもできます。
また、土湯系、南部系、津軽系など伝統こけしの各系統別作品も展示されています。
こちらは津軽系。表情や形状、模様をじっと眺めていると、一本のこけしには縄文期以降数千年の長い歴史をイメージした模様が刻まれているんだなと感じます。
展示コーナーでじっとこけしを見ていると、このイベントに協力した「東京こけし友の会」の幹事さんからお声をかけられ、貴重なお話をうかがうことができました。
伝統こけしには地域や工人ごとにフォーマットや意匠が決まっていて、それらは親から子へ、師匠から弟子へ直々に伝えられながら現在に続いています。よって他の工人のフォーマットや意匠を使うことをしないのが暗黙のルールとのこと。すべて手造りのため同じものはふたつとなく、一本一本のバリエーションを楽しむのがこけし趣味の面白いところです。
そういえば鳴子の喫茶店に行ったとき「こけしの違いってどうしたら分かるんでしょうね…」とお店のご主人にストレートに訊いたところ、「じっと眺めていると次第に分かるもんだよ」と教えてくれたことを思い出しました。
たしかに最初はみんな同じような顔やかたちをしているとしか思わなかったのが正直なところです。「この◯◯型のフォルムがいいでしょ?」と言われても理解できない自分がなんとも悔しく、過日に「鳴子温泉といえばこけしだろう」と旅の土産に買ったこけしを居間に飾っては眺めていたわけです。
ある日、パソコン作業に疲れてふと居間に鎮座した3本のこけしを眺めたところ、ひとつずつ表情が違うことに気づきました。この気づきは突然のものでしたが、そこに至るまでにはさまざまな情報や経験の蓄積があったからなのでは、と考えます。
「こけしの観点」は人それぞれですが、主なものを取り上げると…
- 顔の表情(面描)
- 胴体の模様(描彩)
- 全体的な姿(形状・フォルム)
- 製作者とその年代
- 産地や師弟関係による個体差(系統・系列)
などといったものがあり、それぞれの観点でいろいろ調べていくとなかなか奥が深いそうです。最初は直感的に「これ、かわいいな」と感じたものをまずは買ってみて、ゆっくり眺めるのがいいのかなと思います(実はこの「直感」がとても大事だったりします)。「また欲しいな〜」と思ったらこけしの魅力にもう一歩近づくのではないでしょうか。
冒頭で書いた「めったに見られないものが…」はこちら。「足踏みろくろ」による製作実演です。
足踏みろくろは旋盤の先祖的なもので、江戸末期に登場し全国の木工製作現場で使われました。東北地方には明治期に伝わり、鳴子では昭和20年代頃まで使われていました。その後、モーターが動力源の「電動式ろくろ」が昭和初期から普及し、現在ではこけし製作の場面で足踏みろくろを使うことも、さらにはそれを動かせる人も少なくなりました。
この足踏みろくろを使える数少ない技術者のひとりがこちら、伝統工芸士・早坂利成工人です。
鳴子のこけし店では製作現場を人通りのある窓側に置いて、観光客が見学できるようにしているところもありますが、目の前数十センチの至近距離で見られる機会は貴重です。
真剣な眼差しの早坂工人。けれども来場された方が質問するととても気さくに楽しく説明してくださいました。
木を削るには一定の回転数が必要ですが、早過ぎると木地が吹っ飛んでしまいます。足の踏み加減で回転数を調整しながら、なおかつ手に持ったかんなを木地に当てていく…長年の経験と技術があって初めてできるものなのだと感じました。
独特な形状のかんなで削るときの音が心地よく感じます。
こけし工人は道具も自分で作ります。
「ホーマックには売ってないから(笑)」〜早坂工人談〜
現在、こけし製作は木を削るところから絵付けまですべて一人の工人がこなします。
分業にできないのは「全体的なバランスを見る必要があるから」。
大きさも定規で測ることはせず、自分の眼と手で読み取ります。
「寸分違わず同じものを量産する」ではない価値観がここにはあります。
木地の表面を磨くのは「とくさ」を束ねたものを用います。
漢字で「砥草」と表記するように茎の表面にあるギザギザを使ってサンドペーパーの要領で磨くと、柔らかなツヤが出てきます。現在の製作現場でも市販のサンドペーパーと併せて使っています。
ちなみに、とくさに水をつけることで目の粗さより細かいものにすることができます。さらに細かい目が必要なときは「稲わら」を使います。
さらにこけしの表面に蜜蝋を塗ることでより光沢を出したり、絵付けの染料が流れないようにしています。
けれども水気はひじょうに苦手で、今回のように雨が降っている日は展示品や販売品を雨で濡れた手で触られないように気を遣うのだとか。
気づけば3時間近く会場でこけし作りを見ていました。鳴子には何度も出かけているけれども製作風景をじっと見る機会は今までなかったのが正直なところです。「東京こけし友の会」の幹事さんからお伺いしたお話もとても興味深く、こけしの見かたがまた増えました。
おそらく次に鳴子へ出かけるときには、こけし店の中でずっと作品を見入ってしまう自分がいるのではないかと想像に難くありません。