Kokeshi Second Angle,弥治郎系こけし棚,鎌田文市

「人形の髪の毛が勝手に伸びる」といった現象はときにオカルトネタの材料にされて怖がられることが多いのですが、
「人毛や化学繊維でできた人形の髪の毛は温度や湿度、あるいは経年によって伸縮する」
という理屈を知ると「ああ、そういうことか…」となって、むしろ怖いのはおのれの無知であることを思い知らされます。

さて、拙宅のこけし棚ではこんな現象が。
文市の動くこけし

ふだんは日焼け防止にレースのカバーを棚にかけていますが、通気もかねてカバーを外してみたところ…
鎌田文市工人作(1968年・三八型。以下、文市さん)が左を向いて右側の新山吉紀工人作に語りかけていました。

収集家の方が「こけしがひとりでに隣の仲間に話しかけている」現場を目撃する例は結構あるそうですが、拙宅のコレクションでも同じ現象が起きるとけっこう驚くものです。

実はこの文市さん、底面の据わりがよろしくなくてちょっとした振動で揺れるのです。
ためしに棚を少し揺らしてみたところ、文市さんはカタカタ言いながら微かに回転しました。

振動の原因は…?
棚は畳敷きの部屋に設置しています。部屋の中を歩いたときの振動が畳に伝わり、棚にも伝わっていきます。
棚の中の文市さんはその揺れを感じて少しずつ左に回っていったと考えられます。
さらに先日発生した震度3の地震も振動の原因のひとつでしょう。

それにしても角度にして約80度、うまく回ったものだなと感心します。
飾るときは正面を向けることがほとんどなので「たまには話し相手がほしかったんだな…」と想像するのも楽しいかなと思います。

Kokeshi Second Angle,弥治郎系新山実

伝統こけしに興味を覚えた直後、いくつかの資料を読み漁っているうちに、個々の作品には呼び方があって「作者名+師匠など先代の名前+型+特徴」と表すことが多いとわかりました。長年鉄道趣味を続けている私にとっては「モハ481形 キノコ型クーラー」といったファン特有の車両の呼び方に近いものを感じ、合点がいきました。

今回は「えいごろうがた まげ」です。
最後の「まげ」という響きにそそるものがあります。
多くのこけしは頭髪の髷を描くことで表現しますが、これを木地と描彩で立体的に表現したものを「髷こけし」と呼んでいます。髷こけしを手がけた工人は多数おり、弥治郎系では新山栄五郎工人とその弟子の作品が知られております。

画像は2015年7月2日、巣鴨のとげぬき地蔵尊で開催された「弥治郎系伝統こけし製作実演」で入手した新山実工人の作品です(当日の模様は姉妹サイト「現代風景通信」の「2015.07 美と技巧に浸る4時間 ~巣鴨とげぬき地蔵尊・弥治郎系伝統こけし製作実演~」に掲載しております)。

一筆目、淡いチークなど実工人のセンスが盛り込まれています。
素直に愛くるしい表情です。この作品を見つめていると自分まで目を細めてほほえみ返してしまいます。

新山実栄五郎型髷1

新山実栄五郎型髷2

新山実栄五郎型髷3

新山実栄五郎型髷4