Kokeshi Second Angle,鳴子系幸八系列,熊谷正

全国こけし祭り会場風景(鳴子小学校体育館にて、2018.9.1)

大崎市鳴子温泉の「全国こけし祭り」は町内を挙げて開催する、こけし関連イベントの中でも大規模なものとなっています。感染症の絡みで2020年は延期、2021年の一般入場不可ながらもコンクールをはじめネットによる抽選頒布などによってかろうじて開催となりました。

とはいえ、ふだんの鳴子の町とは異なる雰囲気を楽しめる「リアルな全国こけし祭り」が懐かしくも恋しくもなってくるものです。

そこで手にしたのがこのこけし。

上鳴子の 熊谷正 工人が全国こけし祭りの会場、鳴子小学校体育館において足踏みろくろを使って製作した作品です。後藤善松工人(1916-1962)の型をモデルにしています。

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上鳴子・熊谷正工人作、こけし祭り足踏ろくろ実演善松型、2004.9.4 -1

鳴子小体育館の賑やかさの中で作られたと聞くと、ふしぎと会場の音と熱気がこけしから伝わってくるように感じます。周りはお祭り気分だけど作る側は真剣勝負、キリッとした表情がそれを物語ります。

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上鳴子・熊谷正工人作、こけし祭り足踏ろくろ実演善松型、2004.9.4 -2

こけし祭り会場実演、足踏みろくろ挽き、しかも後藤善松型、という点に興味が湧いて入手してみました。
手に取って触ると足踏みろくろ独特のざらざら感が心地よいのですが、より心地よさを感じるのは底面の切り落とし(切り離し)です。

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上鳴子・熊谷正工人作、こけし祭り足踏ろくろ実演善松型、2004.9.4 -3

底面をよく見ると、最初にろくろを回転させた状態で木地の外縁にノコギリの刃を入れ、次に回転を止めて手でノコギリを引いて切断しています。この作品は足踏みろくろ時代の作り方を底面に至るまで再現しています。

現在のモーター式ろくろによる製法では、材料を事前に底面を平らに処理して「丸爪」で固定するため、切り離しの工程はありません。

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上鳴子・熊谷正工人作、こけし祭り足踏ろくろ実演善松型、2004.9.4 -4

指先で底面を触ってみます。
このざらつき具合が懐かしく思うのは私だけでしょうか。

(参考)陶器の糸底(高台)

このこけしに関心が向かったのは、今秋、高亀の武俊工人にお会いしたときに「こけしの切り落としと陶器の糸底(高台)の共通性」についてお話しされていたことを思い出したからでした。
このザラつきは機能・デザイン的な側面、感触の側面など「敢えて残す意味」があるのだと教えてくれました。

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上鳴子・熊谷正工人作、こけし祭り足踏ろくろ実演善松型、2004.9.4 -5

ちなみにこけし祭りの足踏みろくろ実演は櫻井昭二工人〜熊谷正工人〜早坂利成工人と引き継がれています。

Kokeshi Second Angle,鳴子系えじこ,岡崎靖男,岩太郎系列,田邉香

新屋敷・岡崎靖男工人作、2021.

鳴子温泉新屋敷にある「こけしの岡仁」を訪問したとき、藍とも異なるあざやかなブルーに魅せられて手に入れた作品。

えじこは工人の遊び心がよく出ます。
一方えじこを手にした人は遊び心をくすぐられます。
老若男女、誰から言われなくてもこのえじこを差し出されたら頭の部分をつまんでくるくるしてしまうでしょう。
プリミティブな遊びの中に私たちが求めているものを見出すことができます。

現在、身のまわりにはタッチパネルの機器が増え、画面に表示される妙に精彩なグラフィックに圧倒されつつも「押した感」や「つまんだ感」、そして「回した感」が満たされなくなっていることに気づくのです。
そんなとき、えじこに手をふれてみるとしばらく忘れていた感覚を取り戻せるのではないかと思います。

最近、各産地でえじこ(特に玉入れ式)を作るのが流行っているのは時代背景を反映しているのかもしれません。

鳴子・田邉香さん(工人修行中)作, 2021.5.11

こちらは記事執筆時点で岡崎靖男工人の工房において修行をしている田邉香さんの作品。
修行中や研修中は「工人」と表記しない慣例から(この慣例なるものがいつ頃からあるのか疑問の余地がありますが…)回りくどい表現になってしまうことをご容赦ください。

いいお湯に浸かったときの表情をしています。
「湯とろぎ温泉こけし」と呼ぶそうです。
ちなみにゆとろぎとは「(ゆとり+くつろぎ)−りくつ」の意。

こちらも手にすると頭の部分や湯船の部分を揺らしたくなってきます。

鳴子・田邉香さん(工人修行中)作, 2022.

鳴子温泉の「お湯の色」をイメージした描彩(→香さんのInstagram投稿より)。
このエメラルドグリーンはあのホテルの大浴場でしょうか、それともあの旅館の自家源泉でしょうか。

岡崎靖男工人作と田邉香さん(工人修行中)作, 2022.

「首振りえじこ」の師弟作をならべてみました(→動かしたときの状態はリンク先をごらんください)

鳴子・田邉香さん(工人修行中)作, 2022.

2022年の春先。
鳴子は日中気温が上がり、町なかを散歩しながら春が目の前に近づいてきていることを身体で感じました。

そこで出会ったのがこのこけし。

黄胴に暖かな陽射しを、表情に春に向かって前へ進んでいくような印象を覚えました。
このこけしを持ち帰ったあと、近所の中学校で卒業式がありました。卒業証書を持って正門から出てくる卒業生たちの表情とふと重なって見えました。