大崎市鳴子温泉の「全国こけし祭り」は町内を挙げて開催する、こけし関連イベントの中でも大規模なものとなっています。感染症の絡みで2020年は延期、2021年の一般入場不可ながらもコンクールをはじめネットによる抽選頒布などによってかろうじて開催となりました。
とはいえ、ふだんの鳴子の町とは異なる雰囲気を楽しめる「リアルな全国こけし祭り」が懐かしくも恋しくもなってくるものです。
そこで手にしたのがこのこけし。
上鳴子の 熊谷正 工人が全国こけし祭りの会場、鳴子小学校体育館において足踏みろくろを使って製作した作品です。後藤善松工人(1916-1962)の型をモデルにしています。
鳴子小体育館の賑やかさの中で作られたと聞くと、ふしぎと会場の音と熱気がこけしから伝わってくるように感じます。周りはお祭り気分だけど作る側は真剣勝負、キリッとした表情がそれを物語ります。
こけし祭り会場実演、足踏みろくろ挽き、しかも後藤善松型、という点に興味が湧いて入手してみました。
手に取って触ると足踏みろくろ独特のざらざら感が心地よいのですが、より心地よさを感じるのは底面の切り落とし(切り離し)です。
底面をよく見ると、最初にろくろを回転させた状態で木地の外縁にノコギリの刃を入れ、次に回転を止めて手でノコギリを引いて切断しています。この作品は足踏みろくろ時代の作り方を底面に至るまで再現しています。
現在のモーター式ろくろによる製法では、材料を事前に底面を平らに処理して「丸爪」で固定するため、切り離しの工程はありません。
指先で底面を触ってみます。
このざらつき具合が懐かしく思うのは私だけでしょうか。
このこけしに関心が向かったのは、今秋、高亀の武俊工人にお会いしたときに「こけしの切り落としと陶器の糸底(高台)の共通性」についてお話しされていたことを思い出したからでした。
このザラつきは機能・デザイン的な側面、感触の側面など「敢えて残す意味」があるのだと教えてくれました。
ちなみにこけし祭りの足踏みろくろ実演は櫻井昭二工人〜熊谷正工人〜早坂利成工人と引き継がれています。