Kokeshi Second Angle,鳴子系直蔵系列,高橋正吾

鳴子_正吾_武蔵写し高橋正吾工人作、武蔵写し。
85歳現役とは思えないしっかりした挽きと筆致。

これぞ鳴子系、質実剛健のことばがとても似合う作品です。
オーソドックス、スタンダードであることの安定感。
見るほどに、時を重ねるごとにじわりと味が出てくる…その味覚が分かっていけるように私も精進したいと考えます。

気に入ったこけしを見つけたとき「こけしと目が合った」と表現するファンは結構いまして私もそのひとりです。

かつてこけし研究者で一世を風靡した土橋慶三氏は自身の著作でこけしの選び方について、自分自身の直感を大切にしなさい、との趣旨で説いておりましたが「目が合った」というのはまさに直感的な現象のひとつだと思います。

2016年1月上旬、東京・神宮前で開催された佐々木一澄さんたちの個展「日本の郷土玩具」、「集めたり 描いたり」に出かけたときの話。

全国の郷土玩具の頒布コーナーを眺めていると、鳴子の高橋正吾工人作が数本、棚に並んでいました。検討がてらにちらっと眺めていったんコーナーを離れたのですが、なにか引っかかるものがありました。

しばらくすると頭の中にあの上目加減な表情がくっきり浮かんできました。ちらりとだけ眺めたつもりなのに脳裏に焼きついているとは、やはりただものではない…ふたたび私はコーナーに呼び戻され、連れて帰ってくることに。

th_P1010931個展が開催された神宮前の「OPAギャラリー」にて。

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個性派揃い。展示された全国の郷土玩具たち。
中には廃絶(後継者がいないなどの理由により製作が途絶えてしまうこと)された郷土玩具もあります。

th_P1010927ギャラリーに展示された伝統こけし古作群。
大湯温泉の小松五平、鳴子の高橋武蔵、大沼岩蔵、大沼みつお、大鰐の長谷川辰雄各工人作が並ぶ。

鳴子_武蔵写しの「原(げん)」となった、高橋武蔵工人の戦前作。
武蔵工人は現在の鳴子こけしの流れを作った工人のひとり。

Kokeshi Second Angle,鳴子系岸正規,金太郎系列

鳴子_正規_正男型1ネットオークションで「作者不明」とありましたが、出品写真をよく見れば鳴子温泉湯元の 岸正規 工人作と分かり落札しました。

底面には

「頭一ツ葉 胴みず木 正男型 岸正規」

と書かれています。なにかの暗号かと思いますが、ここに作品の基本データがすべて書いてあります。

この作品、頭部と胴部で材料が異なっています。
胴部はこけしの材料として広く使われている「ミズキ」、頭部は「一ツ葉」という材料を使っています。ネットで「ヒトツバ」と検索すると真っ先に出てきたのが「ヒトツバタゴ」。
最初、私は「珍しい材料を使っているなぁ」と思ってInstagramの説明欄に滔々(とうとう)と「ヒトツバタゴ」について書いてしまいました。

少し経って疑問が出てきました。
「あれ? ヒトツバタゴは熱帯圏の木なのになぜ鳴子で取れるの…?」
まさか鳴子熱帯植物園で採取するわけはないでしょう。
とんだ早とちりでした。

それでは「ヒトツバカエデ」ではないだろうか? と思ってみたものの、目の前のこけしと木材の見本写真で木目が違います。さて一体…?

 

こけしに使われる材料の名前を調べていて、「植物図鑑に載っている『和名』」と「その地域で呼ばれている『方言名』」に違いがあることに気づきました。
現物と木材の見本写真を照らし合わせて、ここでいう「一ツ葉」とは「アオハダ」のことではないかと思われます。

ちなみに東北地方で「ヒトツバ(もしくはヒトツパ)」の名で呼ばれている樹木には

アオハダ(モチノキ科)
ヒトツバカエデ(カエデ科)
ウラジロノキ(バラ科)
ハクウンボク(エゴノキ科)

などがあります。
判断が難しいと感じたのは「アオハダ」も「ハクウンボク」も「ヒトツバ」と呼ばれるところ。『こけしの旅(土橋・1983, p65-66)』では「ハクウンボク」を「ヒトツバ」、「アオハダ」を「ビヤベラ、またはベラベラ」と区別し、木肌は似ているが葉も花もまったく異なると説明しています。

 

鳴子_正規_正男型2この正規工人作は父親であり師匠である岸正男工人の型を継承しています。
頭のてっぺんがフラットになっているのが大きな特徴です。製作年は1991年頃と推定。

アオハダの細やかな肌がiPhoneの写真で捉えられているかちょっと厳しいところですが、感じは伝わってくるかと思います。まるで免許証の写真のような画像になってしまい恐縮です。

頭部にじっと寄ってみると木肌のきめ細かさと滑らかさがあり、蝋引きをしなくても光沢のある、とてもきれいな肌をしています。アオハダが頭部だけに使われたのは、胴部よりも緻密な加工を必要とするために硬い材質が適していたという理由のほかに、木地の漂白や蝋引きをせず「白くつややかな美肌感」が表現できる材料だったからではないでしょうか。

「こけしの微笑」で高橋武男工人の談に

こけしの素材はヒトツパが良いと思いますが、鳴子では多く頭の方に使って胴には使わないようです。
(「こけしの微笑」・深沢要・羨こけし P76)

とあります。
現在では頭部も胴部も同じ材料を使うのがほとんどですが、戦前には異なる材料を使う場合があったことが読み取れます。

【参考サイト】
川沿いにある元気な木工屋さんの『木地録』 2014年05月27日 今日の木地(アオハダ)