Kokeshi Second Angle,仮説だらけのこけし研究レポート,鳴子系

前回、塀の上から”いらっしゃいませ” 〜店先の巨大こけしオブジェ 〜」と題して街中にあるこけしオブジェについて触れた続編。今回は「あの電話ボックス」です。

テレビや雑誌で鳴子温泉が紹介されるとき、決まって「町中のいたるところにこけしがいっぱい」というナレーションやキャプションに合わせて、こけしの頭部を屋根に載せた電話ボックスが出てまいります。

登場したのは1980年代前半。桜井こけし店の店頭に設置されたFRP製オブジェが好評だったことから、この時期には多数の大型オブジェが作られ町中に設置されました。電話ボックスもそのひとつです。

公衆電話チズ非公式Wiki 公衆電話ボックスの形式」を参照すれば、FRP製の頭部が載っているボックスはA型。1985年以降に登場したB型ボックスではないことからも設置時期はそれ以前であると分かります。

th_n_telbox01さて、「20年前の児童書に書かれたこけし特集の本気ぶり」で紹介した「こども時刻表春号(通巻6号・1992)」の記事写真を改めて見ていたところ、こけし電話ボックスは鳴子駅(当時)前の階段横に2基並んで設置されていました。ちなみにボックス型式はA型です。

鳴子温泉駅前
現在も駅前の同じ場所に公衆電話ボックスは設置されていますがC型が1基、頭部はありません。

「では駅前の双子こけしボックスはどこへ…?」という興味を持ち、まずは現存する実物をこの目で確認したいと思っていたところ、2016年3月に鳴子へ出かける機会できたため、さっそく設置場所へ赴くことにしました。

結論から言うと、駅前の双子ボックスは撤去後、現存していないとの残念な報告を聞くことになってしまいました。同時期に設置されたボックスは4基あり、うち現存するものは2基。ひとつはこちら。こけし電話ボックス_総合支所1大崎市鳴子総合支所の正面玄関にて。当時は玉造郡鳴子町役場だった庁舎は合併により支所へ生まれ変わりました。

こけし電話ボックス_総合支所2 駅から徒歩数分とアクセスしやすい場所なので発見は容易です。テレビや雑誌などのメディアで紹介されるのはすべてこちら。

もう1基の居場所が気になります。現存していることは分かったのですが場所が分からず悩んでいたところにInstagramのフォロワー様から有力な情報をいただき、現地へ向かいます。

鳴子大橋から山形方面を望む国道47号線と国道108号線が分岐する新屋敷交差点を鬼首方面に進み、鳴子大橋を渡ります。コンビニエンスストアを通り過ぎた頃に…発見。

こけし電話ボックス_旧電話局1かつて電話局があった場所です。現在はNTT東日本の電話回線設備関連の施設(収容局)になっており「古川鳴子局」の名称で呼ばれています。

こけし電話ボックス_旧電話局2施設風景。
ボックスだけが妙に浮いて見えるのは、電話局の建物が撤去されて視界を遮るものがないからと考えました。歩道と同じ高さに設置せず階段を設けているのは積雪対策です。

こけし電話ボックス_総合支所3こけし電話ボックス_旧電話局3
頭部の面描を並べてみます。
ここでは左(上)を「支所型」、右(下)を「電話局型」呼ぶことにします。

支所型は鬢の長さが後方に向かって長く、顔面のパーツは中央に寄せて描かれています。
頭部の形状は首の部分がきゅっと細く仕上がっています。

一方、電話局型は鬢の長さがほぼ同じ、眼点が少し大きめな半月状です。
頭部は丸型に仕上げています。

「設置当初のオリジナルは電話局型ですが、経年により色あせたため総合支所に設置されている1基にいわゆる『お色直し』を施したところで支所型が生まれました」

と当初書きましたが、「こども時刻表」に掲載された駅前ボックス写真を見ると2基とも「支所型」の顔をしていることが分かり文面を訂正しました。1992年の時点でこの顔は存在しており、「お色直し」のときに改めて描き直された顔ではないと考えられます。

こけし電話ボックス_総合支所4こけし電話ボックス_旧電話局4
側面から見ると鬢の描き方をよく比較することができます。

ここで「こけし型電話ボックス」に関するいくつかの疑問点とそれに対する仮説を整理してみたいと思います。

  1. 4基あるボックスのうち、支所型が3基で、電話局型は特異な存在である。
  2. 電話局型が最初に製作されたが、他の場所にも増設しようと量産されて支所型が登場した。
  3. 製作されたボックスの数は4基どころかもっとあり、支所型・電話局型ともに同数存在した。

この仮説の真偽はまた出かけた際に検証してみる必要がありそうですが、3. の可能性は非常に低いと思います。
メディアにあまり紹介されず、お色直しも施されず、経年とともに色褪せて古こけしと似た哀愁を漂わせる「電話局型」に軽い気持ちで興味を持ったところ、けっこう調べ甲斐があるなと感じました。

補遺

過去にも「街なかのこけしオブジェ」について研究された方がおり、その研究の模様は「手帖」の277号〜279号(1984.4-6)に掲載されております。実地調査に基づくとても面白い記事になっているので興味のある方はご一読いただければ幸いです。

記事ではこの「こけし電話ボックス」についても触れており、駅前に2基、旧町役場に1基設置されていると書かれています。温泉街中心部から離れた場所にある電話局の1基は発見に至らなかったのではないかと推測されます。

「手帖」掲載の写真を見ると、駅前設置の2基のうち、左1基が「こども時刻表」掲載写真と異なる描彩であることに気づきました。様式は「支所型」ですが鬢の後頭部側1本が短く描かれています。84年から92年の8年間のうちに「お色直し」もしくは交換が行なわれたと考えられます。公衆電話機がダイヤル式からテレホンカード対応の「緑電話」に交換された時期あたりではないでしょうか。

Kokeshi Second Angle,こけしのドラマトゥルギー,鳴子系直蔵系列,高橋宣直,高橋正吾,高橋武蔵

こけしを頭のてっぺんから眺めるとこれまた楽しいものです。

伝統こけしが何本か並んでいるのを見て「どれも同じように見えた」頃が私にもありました。鳴子温泉の某店主から「見ているうち次第に分かってくるものだ」と教わってから注意深く眺めていくうち、少しずつではありますが「違い」を理解していけるようになりました。

が、鳴子系だけは「この作品はどの系列なんだろう…?」としばらく悩み続けていました。その悩みを緩やかにしたのは「頭頂部分を集めた写真」に触れたことでした。頭頂は系統・系列・作者ごとに多彩な模様があり、同じ作者でも作られた年代によって描き方のバリエーションがあるなど、興味を惹く要素がたくさん詰まっている部位でもあります。

鳴子_高亀_頭頂鳴子系では頭部の前髪まわりに赤色で描かれる模様を「水引手」と呼んでいます。水引手はもともと御所人形の前髪を後ろに束ねて結ぶ赤白の紐の描彩のことを指しますが、こけしに描かれた前髪の飾り模様にも同様に表します(関連→Kokeshi Wiki 「水引手」)。

画像は直蔵系列の直系3世代作を並べてみたものです。
右は高橋武蔵、左が高橋正吾、中央が高橋宣直の各工人作。
この放射状模様は鳴子温泉湯元の「老舗・高亀」の流れをくむ作者に見られる模様です。
もっと細かく見ていくと、放射角や髪の毛とのクロスのさせ方などに違いがあることがわかりますが、それについてはもう少し研究をしてみてから触れてみたいと思います。

鳴子_正吾_宣直_武蔵

鳴子_正吾_宣直_武蔵先日「なるこ 人・技・ものがたり(鳴子温泉観光協会発行・1999.6月)」をという冊子を手にする機会があったのですが、冊子に掲載されていた正吾工人親子の写真をみたとき、ふとこの作品の並びが自画像のように思えました。