Kokeshi Second Angle,こけし道中,鳴子系佐藤俊雄,大沼君子,岩太郎系列

The Kokeshi doll filled with memories of the trip is the only masterpiece for travelers. Cameras and videos leave vivid records, but the Kokeshi dolls leave memories clear.


『手帖(686号,p17-,2018.3)』に掲載された、織物作家の和田薫子さんが 大沼君子 工人の思い出を綴った記事がとても印象に残り、思わず手に入れたのがこちら。

旅の思い出が染み込んだこけしは自分にとってかけがえのない名作なんだと記事を読んで思いました。

カメラやヴィデオは記録を鮮明に残すけど、こけしは記憶を鮮明に残すのでしょうか。

残念ながら私は君子工人にお会いすることはできなかったけど、作品を眺めていると総合支所裏の坂道にある町並みと匂いを思い出すことができます。


新屋敷・君子工人作と、参考として鷲巣・ 佐藤俊雄 工人作(左)。
君子工人は注文が入ると、東鳴子の俊雄工人(師匠は君子工人の父、 大沼新兵衛 工人)に木地を頼んでいたことが記事で触れられています。

Kokeshi Second Angle,こけし道中,鳴子系岩太郎系列,櫻井コウ,櫻井昭寛

9月の全国こけし祭り、10月の鳴子音楽祭、そして紅葉と秋の鳴子は観光シーズンの只中です。
その谷間を狙うように10月7日から9日の3日間、休養を兼ねて出かけてまいりました。

秋の鳴子温泉駅駅に降り立つと秋の美しい青空が迎えてくれましたが、超大型台風の影響で立っていられないほどの強風に見舞われることも。

桜井こけし店4上野々スキー場方面の坂道を散歩していたところ、大きなこけしと目が合いました。
塀の上から巨大なこけしのオブジェが顔をのぞかせています。
ちょうど割れた塀瓦の部分と重なっているので、塀瓦をバリバリと突き破って出現したような印象さえ覚える漫画的なヴィジュアルです。

桜井こけし店5遠景。
道行く人たちやクルマを眺めていたんですね。
ちなみに隣に生えているのが「みずき」で、こけしの材料に使われている樹木です。
初夏には白い花を咲かせ、秋には黒い実をつけます。

ちなみに冬はこんな感じ。
頭の上に積もり始めた雪でとても寒そうな表情をしています。

桜井こけし店2夕暮れの微笑み。
店内の照明が 巨大こけしオブジェ に当たって絶妙なシルエットを描き出しています。
アルミサッシのガラスが鏡になって、背中合わせにふたつ並んでいるようにも見えます。

桜井こけし店3鳴子温泉エリアに入ると街中の至るところで巨大こけしのオブジェを目にしますが、じつはこれ、湯元の桜井こけし店が今から30年ほど前に「店先に巨大なこけしを置いてみよう」と発案したのが始まりだそうです。

さすがに背丈以上のものを木材で作るのは困難なことから看板製作会社に依頼。材質はFRPです。
製作にあたっては万之丞型作品を見本として提出したとのこと。「初代」は経年で色あせたため、2015年夏に新規製作した「二代目」が店先でお出迎えしています。

昭寛万之丞型6寸201106
万之丞型の一例(昭寛工人作/6寸/2011)。

桜井こけし店62013年10月撮影の「初代」。
こちらも万之丞型をモデルに製作されました。
新旧ふたつのオブジェを見比べると、初代のほうが原作に忠実なのかな…という印象を覚えます。
二代目は眼点が大きく、現代的な表情をしています。髪先をあとで描く前髪の描き方が二代目には再現されているものの、髪先の密度が高いかなとも思えます。

万之丞工人のご夫人である桜井こう工人(1897-1978)が描いた、髷を結った描彩が特徴の「こう型」のオブジェも同時に作られ、店舗3階の上野々へ至る道路に面した場所に設置されています。さきほど塀の上から顔を出していたのはこちら。
実際の作品も一緒に鑑賞してみましょう。

桜井コウ型髷を結った描彩が特徴の「こう型」をお招きしました。左は昭寛工人の2015年作、右はこうさん74歳時に描いた1971年作。 少し左上な目線で微笑む姿がなんともキュートなのでカメラもそちらに向けてみました。 近所のお子さんやお姉さん、お母さんお婆さんetc…がすれ違いざまに会釈したときなんかにふと見せる微笑みってとても心が安らぐのですが、こけしの表情もそれに通じるものがあるように感じます。グラビアやピンナップの微笑みとは別の美しさがあります。

「巨大こけしオブジェの系譜」という研究をしてみたら面白いのではないかと、ふと思いました。
記念碑的もしくは観光PRを目的に、木材以外の材料によって作られた伝統こけしをモデルにした制作物を取り上げ、それらが作られた年代、経緯、製作に携わった関係者や事業者などを調べてみるといろいろ発見できるのではないか?
もっとも実際に調べだすとかなりの労力と時間を覚悟する必要がありますが…。