たつみ時代の作品たち
好奇心旺盛ないたずらっ子的雰囲気を連想させます。
胴模様の重ね菊は底面に向けて間隔が広がり、遠近感や安定感を見る者に与えます。頭の大きいこけしですが、正面から見ると意外とスマート。
頭の上から見下ろしたとき、胴模様の重ね菊はほぼ等間隔になります。
「こけし徘徊(照井, 1993, p84)」に森亮介氏がかつて「こけしは先祖の心」と話したエピソードが書かれておりますが、森氏がそれに気づいたのは菊治古型の復元を菊治工人本人に依頼したとき、頭部に描かれた手柄模様の様式に伝統性を感じたからだったそうです。
菊治本人による古型の復元が功を奏したのち、亮介氏はそれを継承へ結びつけるべく息子の忠工人にも菊治古型の製作を依頼し頒布しました。
何度見てもこの好奇心旺盛な表情がたまらなく素敵です。
たつみ以降の作品たち
前掲の作品から20年が過ぎ、21世紀に突入した現在においても忠工人は魅力的な表情のこけしを作り続けています。
少しお転婆な印象のする表情。正面だけでなく、いろいろと角度を変えて眺めてみるとくせになる顔です。
こけしは立体物、敢えて左右対称に描かないことで表情に広がりが出てきます。
それにしてもなかなか強烈なお顔だことで…
保管ケースから取り出して眺めていたときのこと。
窓から差し込む冬の日差しが頭部に当たる姿を見てドラマを感じました。
なんだか希望を感じます。
忠工人が描く表情はとても土臭いところがいいのです。タイムスリップして小学生時代の同級生に出会ったような屈託なさに救われます。